当診療所に定期通院されている患者さんが「○○列島」という映画を見たそうだ。そして診療中の会話。
「先生、ウイルスって恐いですね。映画みたいにバタバタと倒れてしまうこと、現実に起きるんでしょうか?」
「映画見てないから、わからないけど…。この日本で普通に生活している人がバタバタ倒れて死んでしまうウイルス感染は起こらないと思うよ、たぶん。」
また別の患者さんもTVの特別番組「ウイルスの驚異(?)」というシミュレーション場面で、通勤中の人々が倒れ込んでいくのを見て、同じような質問を投げかけて来た。
毎年、冬には老人施設等で何人もの高齢者がインフルエンザで亡くなっている。しかし、それはウイルスの殺傷力が強くなった為でなく、人間の側の免疫力低下や活性酵素の処理機能の不全、および脱水等による自然治癒力の低下などが根底にあり、残念ながらお亡くなりになるのである。
例えば私が今流行中の「ソ連A型」インフルエンザに罹患したとしても決して死ぬことはない。しかし30年後(86歳)の私であるなら、死ぬ確率は30%位であろうと思う。
そもそもウイルスに対する見方は一般的に定着していない為、個々人の持つイメージは情報によって簡単に塗り変えられてしまうのである。考えるに、中学校の保健の授業で基本となる知識を提供してさえいれば、ここまでホンロウされることはないと思う。
しかしながら医学部教育に於いても「ウイルス学」という講義はあるが、コマ数が少なくほんの一握りの表層的知識が得られるのみであり、ましてや臨床系では肝炎、AIDS、インフルエンザというメジャーなウイルスについてちょっと勉強するだけなのである。
実際、医者というものは国試を通って医師免許を持ってからが大変なのである。どれだけ不断の勉強を続けているか?で力量に差がついてくる。
1980年に天然痘根絶が宣言された。人類とウイルス感染というテーマは、一時「ワクチンと血清によって人類の勝ち!」と安堵を得たかのように見えた。しかしながら、その后AIDSやらSARSやら鳥インフルエンザやら、色々とウイルス達は話題を提供してくれる。また、80年代半ば以降の15年余りで新しく発見されたウイルスは60種以上と言われている。
さて、人間に感染するウイルスは大きく分けて2種類ある。ヒトヘルペスウイルスを代表とする潜在性ウイルスと、インフルエンザウイルスを代表とする外来性ウイルスである。これらウイルス達については次回のメッセージでバイオセーフティー、レベル4(最も危険)の情報も入れて私の知見を述べたいと思う。
以上のようなウイルスについての基本的知識を持って映画やTV番組が作られているとは思えない。通常、情報媒体は時代考証や医療考証を行う為の鑑修役という人を準備するのが建前である。フィクションなのかノンフィクションなのか?
ある程度の根拠と起こり得る確率などを曖昧にさせたまま、風邪が流行る時期に合わせて、いたずらに恐怖心をあおっているように思えてならない(不安を募らせる番組は視聴率が上がるそうだ)。そこで、これらメディアが作り出す情報の背景で医療考証役を医者が担当していたとすれば、その医者は「不安や恐怖心が人体に、しかも免疫力に悪い影響を与える」ということを知らない無能な輩か、または知っているならば倫理的に医者としてあるまじき無責任な判断をしていると言いたい。
