私が医学生だった32才の時、母は胃癌で、翌年父は脳血管性パーキンソニズムによる誤嚥性肺炎で他界した。
幸い(?)私の家系は癌が多い為、身内や近い親族に寝たきり状態が長期に渡る人はいなかった。
あなたの身近に、いわゆる寝たきり老人と呼ばれる方はいますか?いましたか?
…スタッフ弁「うちのじいちゃん93才、昼でも寝てばかりいるけど、トイレや食事は粗相はあっても自分でやろうとするし頭はしっかりしてるから寝たきり老人ではないと思う」
そうですね。ここで「寝たきり老人」という言葉の意味を考えてみましょう。
私の手元に「寝たきり予防総合戦略に関する研究事業…(平成12年3月)」という国がつくった冊子があります。
そこでは寝たきりの予防は「脳卒中、骨折、各種の疾病を契機とする廃用症候群等により障害を生じた高齢者が、要介護状態とならないための効果的なリハビリテーション(以下リハと略)が提供されるよう…云々。」と書いてある。
逆に言えば、何かがきっかけでそれまでの日々を過ごすことが困難になるような障害が生じた場合、効果的なリハがないと高齢者は要介護状態になり易いということです。
しかし、要介護の程度が寝たきり度を表す訳ではありません。さらに、どんなにリハをやっても成果が上がらない場合もあります。そして介護保険の認定や障害の診断にいつも苦慮するのですが、認知症(痴呆)や徘徊、衛生観念の欠除や被害妄想等々、身体的には殆ど不自由がなくても家族や人の手を沢山必要とする状態をいかに評価すべきか難しい所なのです。
したがって要介護という言葉には、概ね身体的機能の障害という寝たきりに移行してしまいがちな病態(麻痺や痛み)や廃用症候群(心肺機能や筋力の低下)が存在していることが要件となります。
ただし、変性疾患や頚髄損傷(四肢麻痺)等の方々は、御本人の意欲や意志がどんなに強くても身体が思うように動かない為要介護となっている訳で、私は「寝たきり老人」の範疇には入れません。
かつて人は、食べられなくなると衰弱して死んで行きました。
現代は経管栄養、胃ろうや中心静脈栄養という手法があり、多くの方が生き存えています。
以前勤務していた病院では「寝たきり部屋」という、それは恐ろしいあだ名をつけられた大部屋がありました。殆どの患者さんは経管栄養で、2-3時間に1回の体位交換をされて褥瘡予防、排泄はおむつの中、決して回復が見込まれない状態の高齢者、そこでは奇声はあっても苦情はなく、何故か家族からの文句もなく淡々と同じくり返しの日々が過ぎて行く。
私は「寝たきり部屋」ではなく「寝かせきり部屋」と命名しました。
さて、では「寝たきり老人」とはどういう定義なのでしょう。
実際は、人それぞれ異なるものだと思います。イメージは皆、体験や情報から創られるものなので一般化することは難しいのです。それ故、私のイメージをお話しするしかないのですが…。
「寝たきり」とは御本人がその状況に疑問を感じていない、もしくは葛藤があっても「寝たきり」が許容されている状態であると考えます。
たとえば、身体的に特に障害がなくても意欲や自主性の欠落から寝てばかり居て、身体能力が退化していき活動することが苦痛になってしまい、最後は寝返りもうてなくなる。痴呆と廃用症候群の組み合わせが多く見られます。
また、身体的に疾病の後遺症等があっても極力発症前の生活に戻ろうとする人はリハがあろうがなかろうが、それが原因で寝たきりには殆どなりません。人は向上心と克己心を持っていれば、そう簡単にはgive up しないもので御本人なりに不自由ながらも努力を続けておられる高齢者には学ぶ所が多いのです。
さて、何故「寝たきり老人」になるのだろう。
皆さんにも考えて頂きたいと思います。
ここで一つ、私が寝たきり老人になりたいと仮定しましょう。どうしたらなれるのだろう? 確率的に高い方法は?
事故を期待しても確率は低い…。あまりに痛いのも苦しいのも嫌だし…。生活習慣病が無難かな?
全国700万人の高血圧症、まずその仲間入りを果たすのだ。
カロリーの高い味の濃いもの沢山食べて、当然酒・タバコは止めない。身体に良い運動なんてもってのほか。血圧あげて動脈硬化を目標とする。50才代から少しずつラクナ梗塞(脳CTで小さい梗塞があちこちに!)つくり出し、まだら痴呆は60才代で始めよう。
生活習慣を変えないで、頑固ものと呼ばれ始める。飽食とゴロゴロ日常を連ね、脂肪もつけて骨をもろくして…。? ある時つまづいて転ぶかも!骨折は痛いから、BMI注)23あたりの体重で踏んばれる程度にはしておきたい。
水は飲まずに血液をドロドロに維持することが重要だ。60代後半でちょっと大きな脳梗塞発症!リハがしっかりしている病院に入ってはいけない。
そしていつのまにか「寝かせきり部屋」が終いの棲家になる。
注)BMI:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
